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じっくりと向き合う   美育文化「ポケット」2022.9月刊 巻頭

                         漆芸家 藤澤保子 YASUKO FUJISAWA

 もうかれこれ55年ほど「うるし」にかかわってきました。作品にはたくさんの迷い、失敗、遊び心が詰まっています。その分、時間をたっぷり吸い込んでいます。

 産地の職人のように分業で、同じ作品を量産したり、展覧会作家のようにある特定の技法と作風を押し付けられる感じも何かしら違います。

 材料となる木を手に入れ、形を作り、技法を開発し、長い時間をかけて一つだけの作品を作り上げます。材料、形状、膨大な加飾の技法がいつもぐるぐると頭をめぐっています。個展会場では何人かの作家の共同出品と間違われたりもします。ちょっと頑固ですが、これが私の自己実現。

 なぜかうるしが好きです、毎回違うものを作りたいのです。ですから失敗に近いこともよくあります。この場合はちょっとわきに置いて別の仕事に精出して「時」の熟するのを待ちます。近年時間を急ぐことが良いことのように思われていますが・・・。私の中の生きている時間感覚とは違います。何かへのこだわり、何回も挑み、答えのない挑戦。次はどんなものを作ろうかといつも考えています。これが私に生きられている時間です。

 あ!こうしたらどうかな、今度こんな風にしてみよう。こんなうるしとの付き合いが今日も続いています。

 長く付き合うと見えてくるものが沢山あります。