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小峰書店「うるしの文化」増刷版あとがき(2022/9)

「うるしの文化」
あとがき―それでもやっぱりうるしは面白い―

 「うるしの文化」を世に著してからもう30年になります。改訂版、さらに今回版を重ねることになりました。かれこれうるしとの生活は55年になります。
ただこれらの年月は漆芸の5000年に及ぶ歴史からは一瞬の瞬きです。

 本書は私とうるしの関係を日本文化を経糸にして紡いできたものですが、改めてその深さを感じます。漆の木を育て、その樹液を採取する人がいて、多くの場合木を加工し、鍛冶屋が腕を磨き多くの道具を生み出して来ました。さらにここから漆塗りをする人、加飾する人がいるのです。それぞれの漆器にはまずもってそれを使う人がいます。使われる場があります。その場は人々の生き方そのものです。文化とはこのような営み全体にしみ込んだ連鎖のことのような気がします。どの部分が切れてもこの連鎖は途切れてしまいます。すべてが遺跡となってしまいます。この連鎖をつなぎとめて新しい可能性を探るというのが、私のささやかでかつ壮大な思いです。

 私のように、分業ではなく、一つの技法に縛られることのない漆芸探究者は一人で多くの連鎖に立ち会うこととなります。この渦中にあって、日々多くの技のこと、道具のこと、生活のありようのことを考えさせられます。

 最近はどうも時間を加速する方向が正しいという生き方が支配しています。
人の歩みに対して適度に時間が後からついてくる、というような生き方が心地良いのでは、と生活を見直す風潮が生まれています。そのような時代にきているようです。

 一人の勝者とその他すべて敗者というのはどうも納得できません。多くの物に囲まれながら、閉塞感のある現代生活は何とも残念です。
「本を見た」というのと「本を読んだ」というのは似ているようですが違います。ぜひ多くの方に読んでほしいと思いながら、また木とうるしで遊んでいます。
 やっぱりうるしは奥が深くて面白い!

2022年9月 漆芸家 藤澤保子 YASUKO FUJISAWA